路上生活と精神疾患(概観)

◇社会的認識
1.平成14年に東京都で行われた調査では(20-60才の男女1500名。郵送調査)、全体的にホームレス、精神病にかかっている人への排除意識が高い結果が明らかになった。他には「知的障害」、「同性愛」へのネガティブな意識が高い模様。また生活保護受給に関して重視されたのは、まず労働意欲の有無と、そして労働をめぐる状況、つまり働く場の有無とと身体状態であった。(小坂啓史[2005]「社会的排除と包摂についての社会意識的基盤」)

2.福祉学生を対象にしたイメージの調査では(調査票にて。平成17年、福岡県の福祉系専門学生206人)、ホームレスイメージのほうが、精神障害者イメージに比べて否定的であることがわかった。学年では一年生より三年生の方が肯定的なイメージとの結果が出る。これより、情報の少なさが偏見やイメージと直結しており、高齢者、障害者、児童を対象とした福祉のように、教育内容として定めれば改善されることが想定される。(占部ほか[2006]「福祉学生の対象者別イメージ比較―ホームレスと精神障害者イメージから―」)

これより、否定的なイメージが社会的に存在することが調べられてきたことがわかる。意欲という点が重視されることより、「怠け者」という認識に結び付けられがちなことも考えられる。また、学年が上がることに認識が変わるとの結果より、学びや情報が増えれば改善される可能性もあることがわかる。研究発信の意義が確認できたのでは、と感じる。

◇路上生活の現状
1.北海道の例としては、2003年、札幌市の路上生活者を対象に行われた調査を見てみる。これは68人に質問紙調査(生活状態と精神的健康)を、9名に面接調査(生活状況)を行ったものである。ここでは3分の2以上が精神的問題を抱えていることが示されており、また生活の場と就労のサポートが必要とされていることが導かれていた。同時に、治療のために医療的側面や、借金返済の法的側面のサポートの必要性も浮かび上がる。(佐藤至英[2004]「ホームレスに対する自立支援システムの構築に関する基礎的研究」)

2.大阪の例では、大阪府監察医事務所の記録をもとに、2000 年に大阪市内で発生したホームレスの変死の全数調査を参考にする。総死亡294 例のうち、病死は172 例(59%)、自殺は47 例(16%)、他殺6 例(2%)、不慮の外因死43 例(15%)で、不慮の外因死には8 例の餓死と12 例の凍死が含まれていた。またここでは路上生活者の50%が、復帰の試みに失敗するといわれており、また失敗者からの話で意欲がくじかれる問題も提示される。そして生活のストレスが健康に悪影響を及ぼしていると感じている者が6割、精神衛生上問題とされる睡眠の質に関しては「あまり眠れない・ほとんど眠れない」が4割。また、不眠やストレスとも関連が強い飲酒に関連する問題を有する者の割合も多いことが示される。(逢坂ほか[2007]「大阪におけるホームレスへの健康支援―社会医学を学ぶ者たちの実践的研究―」)

ここでは様々な要素からの復帰の困難さ、医療サポートの不足、精神面の問題を抱えている現状が読み取れる。また自殺リスクやアルコール問題も複雑に関連することもわかる。

◇日本の支援体制
1.現在の保護行政の取り組みとしては、1990年代以後からこれまでの社会の対応の問題に焦点をあてた研究を参考にする。ここでは衛生・保健・医療関連の対策、福祉・住宅・労働関連の対策、差別問題に関する対策、新しい都市の緊張問題に関する対策の4分野における社会政策の検討が必要になることが結論として示される。また社会政策を時代の変化に対応するかたちで発展させてこなかったことが、ホームレス問題の深刻さと比例しているとも指摘される。(麦倉[2006]「現代日本におけるホームレス自立支援システムの研究」)

2.そして派遣村の健康調査を表した論文では(2009年、問診票より。男性89 名、平均年齢は48 歳)、精神症状としては、不安感やイライラ感、抑うつ、不眠に関する訴え10%が明らかに。突然仕事や住居を失ったストレス、派遣村での集団生活に伴う一過性の心理反応と思われる原因が中心だが、就業時より何らかの精神疾患がありながら受診できず、適切な治療がなされていない例も見られた。同時に、長期にわたって職が不安定である者は、主観的健康感と精神的健康度が低いこと、また正規雇用者と比べて抗うつ薬の処方が多く、精神面での不調を訴える率も高いことも引用されている。(鶴ヶ野ほか[2009]「年越し派遣村村民の健康」)

こうして、政策が不十分なこと、雇用情勢の悪化により今後問題の深刻化も懸念されることがわかる。

◇海外の支援体制
1.イギリスでは、日本と同様、医療活動やホステル、シェルター等などの施設は存在する模様。社会的排除に関する認識は日本とは異なるものの、EUやイギリスでの施策は主に労働市場へのインクルージョンを図ることであり、トップダウン式なのが否定的に示される。日英双方共に、ボトムアップのニーズにあったものが必要と結論付けられる。(大友優子「EU、イギリスにおける社会的排除の概念と対応施策の動向一日本へ与える示唆一」、垣田[2003]「イギリスにおける「野宿者(rough sleeper)」対策―その動向および支援の実例―」)

2.フランスでは、国家責任とアソシエーション(非営利法人)による公民パートナーシップがしっかりしていることが示される。こうした団体を社会全体で支える風土は、カソリシズムもしくは市民意識の高さに由来するのかが示唆される。同時に、NPOの給与水準や社会的評価が高いこと、社会政策としてサポートする国のシステムがしっかりしていると言われる。(北條[2006]「フランスにおけるホームレス生活者の居住支援策の近年の動向」)

3.最後にオランダでは、日本では就労自立のモラルが強調されるが、それとは異なることがまず示される。「オランダのホームレスは、最低生活費を得ることにより社会復帰のプロセスが保障され、今ある医療保障、長期ケア保障、住宅保障などの社会保障諸制度に包摂され、有機的な施策の中で生活が保障されていた。」その根底には最低生活費を請求する権利意識が広く社会に浸透していること、路上生活者は誰でもサービスを受けることができることなどが違いとして強調される。(杉野[2009]「海外事情 オランダホームレス政策の実際」)

一つの邦人研究者の論文からでは不十分だが、雇用政策やNPOとの両面での支援、権利意識と社会的認識の面での違いなどで見習う点がある一方で、財源や全体的な社会保障体系が気になるところである。

◇今後の展望
研究としては、転落の容易さの全体図と、社会復帰の困難さが顕著な現状を一本に描き出すことが方向性として考えられる。方法としては、資料解釈によるライフヒストリーの構築による因果関係の調査(質的)と、行政やNPOの統計資料による相関関係の調査(量的)の組み合わせが有効ではないかと現段階では構想する。
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by kokem-omo | 2009-11-17 01:21  

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