原発と相馬の魚たち

とにかく、地元の魚がない。どこの食堂も旅館も地元の魚は取り扱っていないと言う。スーパーにならあるかも、という情報が手に入った。試験操業で基準をクリアした魚は、地元のスーパーだけに卸されるからだ。しかしスーパーに聞いてみるがどこも、ない、と答える。少し前にはイカやカレイが入っていたが、入荷したとしても少量なので、今は置いていないみたいだ。それでも実際に行くと何かあるかも、ということで相馬市松川浦漁港へ向かう。第一原発からの距離は、北へ40キロほどである。
e0123425_10283323.jpg

静かな入り江に松などが群生して、たいそう風光明媚な土地である。本来なら今の時期は松葉ガニのピークで、仙台や首都圏からカニツアーのバスが十数台並び、大賑わいだという。他にも名物のホッキ貝やカレイ、ウニなど海産物なら何でも獲れた静かなリゾート地なのである。今では漁港は閑散としており、出漁できない船がひっそりと並んでいる。旅館「いさみや」でほっきめし定食、900円を食べる。貝は歯応えがよく、ご飯にタレと貝の旨味がしみ込んで美味である。これは北海道産。観光の客足は回復には程遠いが、復興作業関連の宿泊で何とかまかなっているという。
e0123425_10425354.jpg

とはいっても、入り江にはのり養殖の杭が並んで見える。しかしそれも試験的な養殖だそうで、現在のりも加工品も流通していない、と「佐藤海産物店」の奥さんが教えてくれる。店頭に並ぶのは、全国各地から取り寄せた品と、震災前に加工された在庫の取り崩しだけとなる。高台の倉庫にあったため無事だった、松川浦ののりを使った相馬の岩のりを購入する。少しつまんで食べると、濃厚な磯の香りが口いっぱいに広がり、からめの味付けが絶妙で、これはご飯が欲しくなる。念願の相馬産だが、震災前の「別の海」から来たものである。放射能の問題だけは港や流通網が回復した所で復興完了とはならない。誰もが初めてで先が読めず、永遠に呪いのように魚と海につきまとう。
e0123425_10515050.jpg

岩手、宮城、福島と下ってきたが、どこも海だけが悠然と変わらないままだった。しかし以前とは違った凄みを帯びており、地盤沈下で浸水した港や異常なまで道路に近い川や海は異様だった。(また放射能の問題は、海自体を触れられない祟りに変えてしまった。)

それでも、美味い魚は畏れを和らげてくれる。怖がる必要はない、と陸地に伝える唯一の媒体。荒れ果てた陸地と恐ろしい海に気が滅入るが、そこには魚をまじえた暖かい暮らしがあった。海との共存による復興が、美しく魅力的な地域の発展に繋がることを願うばかりである。

今日は暖かく、いつもより波でさらわれた地に舞う潮風が弱かったので、短い旅を終えようと思う。
[PR]

by kokem-omo | 2013-01-13 11:16  

<< 【アフリカ投資レポート1】 未来を担う志津川のタコ >>